ダイアリィズ イン ミャンマー(4)

自由帳//
  1. ホーム
  2. 自由帳
  3. ダイアリィズ イン ミャンマー(4)

2018年9月17日(月)~18日(火)
ヤンゴンから夜行列車でバガンへ。
晴れのち曇り。

ミャンマー国鉄でヤンゴンからミャンマー中部のバガンへ移動。16:00にヤンゴン駅を出て、バガン駅に到着するのは大体翌朝10:00頃。チケットは昨日のうちに買った。本当は寝台が良かったけど満席だったから、リクライニングシートの席にした。

発車の30分前に駅に来てと言われたので、発車の40分くらい前には到着。ヤンゴン駅は白くて大きくて、洋風の建物にミャンマー様式の飾り付けがされた威厳のある外観。中に入ると吹き抜けのホールがあって、有人のチケット売り場がある。自動券売機なんてものはない。その奥にプラットホーム。改札はなく、一応ゲートみたいなものはあるけど開けっ放しで、横に座っているオッサンがチェックしている様子もない。

プラットホームに降りる階段の降り口にいた駅員さんにチケットを見せると客車まで案内してくれた。年季の入った客車。機関車のすぐ後ろに繋がっている。日本の電車より背が低い。自分が乗るのはアッパークラスで、ほかにアッパークラスの寝台車と、オーディナリークラスという一般客車もある。アッパークラスの座席は3列で、クッションの入ったリクライニングシート。オーディナリークラスは木でできたボックス席。どちらもエアコンがないから窓が全開になっている。

発車まで時間があるので、プラットホームを散歩。ホームの反対側にいたのは何と、むかしJR高山線で使われていたクリーム色の気動車。オレンジと緑のラインの塗装はそのままで、正面の行先表示も「美濃太田」のまま。いまはヤンゴンで在来線として使われているらしい。中に入ってみると、古き良き日本の昭和が広がっていた。幼少時代に岐阜駅に停まっていた車両が今はミャンマーの大地を駆け抜けている。子供のころにひとりで高山線に乗って旅に出た記憶が蘇る。日本から遠く離れたミャンマーの地で思いがけず忘れていた思い出を思い出す。こんな素敵なことってあるんだね。

予定の発車時刻を10分くらい過ぎてから、列車はゴロゴロと鈍い音を立てながら動き始めた。線路はガタガタで、地震体験車の中にいるように上下左右前後にグワングワンと揺れる。機関車と客車を連結する金属部品がガチンガチンと鳴り響く。こんなに揺れまくってうるさくて蒸し暑い環境の中で、これから18時間を過ごすのか。覚悟を決める。覚悟を決めて、開けっ放しにされた窓から身を乗り出す。線路沿いには人々の掘立小屋が並んでいて、そこで商売をしている人もいれば、列車の方をボーっと見ながら何をする訳でもなくしゃがみこんでいる人たちの姿が映る。ヤンゴンで暮らす人々の日常のワンカット。線路上にぶちまけられたゴミの山すらミャンマー国鉄の車窓には映えた。

しばらくすると、列車の客室乗務員の男の子が乗客に声を掛け始める。ディナーのオーダーを受けて回っているらしい。駅へ着く前にスーパーでパンやら水やら買い込んでいたのでどうしようかなーという感じだったけど、せっかくならということで、オーダーしてみた。麺料理で、大体2000チャット。どんな麺料理かは来てのお楽しみ。席まで持ってきてくれるってことだった。

すぐ横に座っているミャンマー人の男二人組に声を掛けられる。どこから来たんだ?日本だよ。日本人がこの列車に乗るなんて珍しいな。ミャンマーの人らが見ている景色を見たかったんだ。日本には新幹線があるだろ?これが俺たちの新幹線さ。乗り心地はどうだ?いやもう最高、すっごく楽しいよ。外国人がこの列車に乗るとみんな気分を悪くするんだぜ、なのに君はずっと楽しそうにしてる。俺は乗り物酔いに強いんだ。楽しい体験をしているのに乗り物酔いなんてサイテーじゃん?ハハハ楽しんでくれてるようで何よりだ。

いくつかの駅を通過して、列車はヤンゴン市街地を離脱。だんだんと農村の景色が広がっていき、そして何もない広大な平原が目の前に広がる。時折小さな村を通過。窓から身を乗り出して写真を撮っていると、村の子供たちが駆け寄ってくる。駆け寄ってくる彼らを写真に収められるくらい列車はゆっくりとしたスピードで走る。もしかしたら原付よりも遅いスピードじゃないか。時々列車が駅でもない場所で停車する。外を見ると牛が線路を横切っている。走り出したと思ったらまた停車。橋の修復工事をしていて、そこをノロノロと、恐る恐る渡る。相変わらず列車は地震体験車のように揺れに揺れ、ガキンガキンと金属音が車内に響き渡る。トイレに行くと床にぽっかりと穴が開いているだけの簡素な作りで、線路の上に垂れ流す仕組みのようだ。穴から見える線路に向かって用を足す。ここでウンコするのは度胸がいるな、線路に触れるくらい長い一本糞をしたら線路の振動が伝わるんだろうな。直腸に直で伝わるミャンマーの鼓動。ミャンマーの大地の息吹が直腸を揺らすのだ。

だんだんと陽が沈んで辺りが暗くなってくる。相変わらず窓は全開。明かりに色んな虫が集まってくる。窓から入り込んでくる埃で全身ドロドロ。バガンに着いたら真っ先に風呂に入りたいなぁ。駅に到着すると、僧侶が乗り込んでくる。次の駅に着くと子供連れのお母さんが乗り込んでくる。彼らはどこまで行くんだろう。カメラを向けるとニッコリ笑った。

すっかり真っ暗になった頃、オーダーしていたディナーが運ばれてきた。これだけグワングワンと揺れる列車の中を、よくぞぶちまけずに運んできてくれたもんだ。油でベタベタの色の悪い焼きそばみたいな食べ物。薄暗い明かりの中でお世辞にも美味そうな見た目ではなかったけれど、食べたら意外と美味かった。明日の朝食はどうするかい?と聞かれたので、コーヒーとオムレツを注文。これも2000チャットくらいだった。

夜が深まる。列車は真っ暗な草原の中を走る。星が見えるかなと思ったけれど、残念ながら曇り空で何も見えなかった。人間とは不思議なもので、こんなに揺れてうるさい環境でも慣れてしまうと眠くなる。寝落ちしては、体にまとわり付く虫に起こされる。その繰り返し。それでもまた眠くなるんだから、自分はきっとかなりの鈍感野郎だ。周りを見回すと床で寝ている人もいた。そういう大雑把なところがミャンマーの良いところであり、俺がミャンマーを好きになった理由かもしれない。寝落ちしては、揺れや虫に起こされるのを繰り返す。何度も何度も繰り返しているうちに朝を迎えた。

隣の席のミャンマー人とダラダラ喋ったり、開けっ放しのドアに腰かけて外の風を感じたりしながら過ごす。例のトイレにもすっかり慣れた。自分の席に戻ったところに、ちょうど昼食が運ばれてきた。ジョッキに注がれたドブ川みたいな色のコーヒーと、卵と肉をグチャグチャに混ぜて焼いたオムレツ。揺れる列車の中でジョッキに口を付けるのは至難の業だった。オムレツは見た目の割に美味かった。

遂に目的地のバガンが近付く。乗客は途中に駅でみんな降りていき、残ったのは俺と、横の彼らだけ。駅からどこに向かう?ミャンウー、空港近くのホステルだよ。良かったら俺たちのタクシーに乗ってくか?それは嬉しいな、ありがとう。彼らはさり気なく気を遣ってくれた。それは俺が外国人だからだという。外国人に気を遣うのは当たり前のことだろう?そういうカッコいいことをさり気なく言える彼らがカッコいい。

予定より1時間くらい遅れてバガンに到着。体はベタベタで服は埃まみれ。えらい目にあった18時間だったけど、不思議と楽しさだけが残った。地球の歩き方では全然お勧めされていなかった列車移動を選んだ自分にアッパレ。プラットホームに降り立ったら、揺れないのが逆に変な感じだった。そんなわけで、バガンに到着。