夏、最後の夏、平成最後の夏。正直に言うとこの表現があんまり得意じゃない。でも、けれども夏は、そろそろ終わりそうな気がする。夏。20代最後の夏。夏の終わり。とりあえず細かいことは抜きにして、そんな夏の終わりに何かこう夏っぽい景色が見たくて、友人を誘って栃木に向かった。

中禅寺湖のほとりに車を停めて、華厳の滝でマイナスイオンとかいうアレを全身に浴びたあと僕らが向かったのは戦場ヶ原。

戦場ヶ原。それは太古の昔、赤城山の神様と男体山の神様が壮絶な殴り合いを繰り広げた場所。

戦場ヶ原に向けて森の中を歩く。夕暮れが近い。遠くで鳴き声。ガサガサと音が鳴った方を見ると、猿の一家が川へ水を飲みにやってきていた。ここは彼らの森なのだ。

しばらく森の中を歩いていくと、突然明るい場所に出た。森と戦場の境界線は近い。

森を出た。もうここには木なんか生えていない。かつて木だった何か巨大なものが佇んでいるだけ。

視界が開けた。戦場だ。ここが戦場ヶ原だ。

夕暮れの太陽に照らされて金色に輝く戦場。かつて山の神々が殴り合った場所は今、美しく輝く平和な湿原に姿を変えていた。

ここには木が生えないんだそうだ。草ばかり生えている。風に揺られて草がサラサラと音を立てる。他には何も聞こえない。車の音も、飛行機の音も、何なら話し声さえも。

戦場ヶ原の向こうには男体山が見える。神々の戦場と呼ばれるこの場所にはかつて川が流れていて、そこに噴火した男体山の灰やら土砂やらが流れ込んで水を堰き止めて湖ができたそうだ。長い年月を経て湖は湿地になり、いつからから今の姿になった。男体山が父だとしたら、川は母。こんな感じの言い回しをどこかで使ったなと思ったら、そうだ蔵王のスノーモンスターだ。

遊歩道を進んでいくと、再び森の中に入る。

森の中は一段と暗く感じられた。

雰囲気が険しくなるにつれて、だんだんと遊歩道も終わりに近付いてきた。国道に向けて遊歩道が伸びていく。遠くの方から車の音が聞こえ始める。

湿地の周辺では木が根を張って大地にしがみ付くことができないから、成長すればするほど倒れるリスクも高まるそうだ。森のあちこちに倒壊した木が転がっていた。それはまるで戦場に捨てられた戦車みたいな佇まい。多脚戦車。なんたってここは戦場ヶ原。

この場所が夏っぽいかと言われると夏って何だろうって考えてしまうけれど、目の前いっぱいに広がる乾いた湿原の輝く光景はケッコー良い線いってると思う。戦場ヶ原を抜けた僕らは近くの売店でアイス買って、路線バスに乗って車まで戻って帰路に就いた。ちょっと夏っぽいなと思った。サヨナラ戦場ヶ原。さよなら金色の湿原。