ある吉日のはなし

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私には学生時代から仲の良いふたりの友人がいて、ふたりはもうずっと恋人同士だ。そのふたりがいよいよ結婚するってなったので、僭越ながら入籍届の提出に立ち会うこととなった。

ふたりとは今でもそこそこの頻度で会っては遠くへ行ったり、飲んだり、展示を見に行ったりしている。大体どこへ行っても「お兄さんたち学生さんかい?」と聞かれる。その度に「また学生って言われちゃったよ」と笑いあったりするんだけど、つまりはそういうこと。どういうこと?

いちおう我々のジャンルは写真友達っぽい感じだと思う。でも写真のテクニカルな話題ってあまり話さない。そんな仲。それで良い。アツい写真友達も良い友達だけど、写真のある生活が好きってだけで尊重し合える仲ってのはもっと良いものかもしれない。ある吉日、東京某所にて、あえて私はふたりの姿を映像で記録することにした。

さっきまで恋人同士だったふたりが、今この瞬間に夫婦になろうとしている。その緊張感と高揚感がカメラの液晶モニタ越しに伝わってくる。

ふたりの手には指輪が光っていた。素敵だなと思った。私の両親は手先を使うことを生業としているので、私が物心ついた頃にはもう指輪なんてしていなかった。だから今でも夫婦イコール指輪という情報が私のDNAには記録されていない。自分が結婚したとしても指輪をしながら生活できる自信がない。

でも、それでもふたりの手元はとても素敵だった。

区役所の裏、休日窓口の小さな受付で、思っていたよりもサラリと婚姻届は受理された。シグマの古いレンズがジージーとピントを探す音が響く。おめでとう。ホントおめでとう。

結婚歴”数秒”の夫婦に向けて、役所の外でちょっとだけ悪さした。

役所へ来る時は恋人同士だったふたりが、役所から帰る時は夫婦になっていた。こうしてふたりが並んでいる姿を今まで何千シーンと見てきたはずなのに、このワンシーンは今までと全然違って見えた。ただハンコついて書類出しただけなのに、何でこんなに違って見えるんだろう。これが結婚か。これが結婚するってことか。

私には学生時代から仲の良いふたりの友人がいて、ふたりはさっき夫婦になった。これからも仲の良い友人であることに変わりはないし、けれどもふたりには思いっきり幸せになって欲しいと思った。

(写真は映像をキャプチャ)