原宿にあるデザインフェスタギャラリーさん主催の公募企画展『#filmisnotdead』が始まった。フィルム写真好きの、フィルム写真好きによる、みんなのための写真展。もともと今年の5月に開催予定だったこの写真展は、新型コロナウイルスに関わる一連の混乱を受け4月の時点で延期が決定。半年後のいまも相変わらず混乱は続いているけれど、そんな中で写真展の開催のために日々努力してくださったデザインフェスタギャラリーの中の人に感謝。マジ感謝。
そんな写真展『#filmisnotdead』にぼくも参加させてもらっている。参加させてもらっているなんてもんじゃない、ポスターにうちの暗室の写真を使っていただいている。あれはもう引っ越してしまった十条の家。デザインフェスタギャラリーのイサカジュンさん(@iskjn)が土砂降りの雨のなか、ワザワザうちまで写真を撮りに来てくれた日のことをよく覚えている。あの懐かしき暗室の写真がポスターになり、チラシになり、Webサイトに掲載され、いまこの瞬間に写真展の顔としてデザインフェスタギャラリーの壁にベタベタと貼られている様子が何だかムズ痒い。
『#filmisnotdead』は、フィルム写真が好きなひとが、フィルムで撮った写真を展示するという、ただそれだけのシンプルなルールに基づいた企画公募展だ。誰でも参加できて、好きなように写真を展示できる。けど展示コンセプトには「フィルム写真製品の絶滅に歯止めを打つべく、展示というリアルな鑑賞体験を通してフィルム写真作品の魅力を草の根から発信する」というポイントが記されていて、これに共感してか、参加者が各々の手法でフィルム愛を壁にぶちまけている様子が強烈だった。
ぼくの展示は枚数が多く、額装もしていない紙の写真をベタベタと壁に貼るスタイルだったので、設営中は周りなんて全然見えていなかった。ようやく設営が終わって周りを見回して、そこで他の参加者の多様多種なフィルム愛の「かたち」に驚かされた。同じ「フィルムが好き」なひとたちなのに、その「好き」の表現はひとそれぞれこんなに違うものなのか。当たり前のことを、さも初めてのことのように驚いた。写真に対するアプローチが違う。フィルム写真の何がどう好きかが違う。仕上げ方が違う。好きな色味が違えば、心地良いと感じるコントラストも違う。ストイックな人がいて、肩の力が抜けている人がいて、フィルム写真を懐かしいと感じるひとがいれば、新鮮だと感じるひともいる。どうしてフィルム写真が好きかを聞いて、返ってくる答えがみんな違う。でも唯一共通しているのは、フィルム写真が好きだということ。そんな多様多種な「好き」をひとつの空間に共存させてしまったのだから、デザインフェスタギャラリーの展示スペースは何だかエラいことになっている。
ぼくのスペースの横ではナカノジュンさん(@black_cat_fly)がモノクロ写真を展示しているのだけど、彼の作品は凄く丁寧に丁寧に仕上げられているのに、肩の力が抜けていて、粒子が心地良くて、いつまでも眺めていられるような素敵な海の写真が並んでいる。一方で、同じモノクロ写真を展示しているぼくの作品と言えば、粗くて、ガサガサしていて、自分ちの部屋の壁をそのまま移設したような仕上がりだ。別にこれは良し悪しでも何でもなくて、同じモノクロ写真という切り口なのにアプローチの手法が全然違っていて、しかもそれが隣同士で並んでしまったというたまたまの偶然である。自分の展示と彼の展示を見比べた時、あまりのその雰囲気と丁寧さの違いに思わず絶句したのは言うまでもないけどね。音楽好きにポップ好きとアンビエント好きがいるように、写真にもまた、ほぼ真逆の「好き」が存在するってことを実感した。
カラーの写真を展示する斉藤和紀さん(@jampanna_)さんは、1970年代に若きご両親が撮影したデート写真のネガを引っ張り出してきて、今回の展示のために手焼きしたという。50年前の光が、色が、今の感覚で新しい形になって、2020年の原宿でたくさんのひとたちの目を惹き付けていた。逃げ場のない暗室の中で、経年劣化したネガと格闘しながら、自分がまだ生まれる前の両親のデートの一部始終と向き合うなんて、これはまるで人体実験だ。そんな思いもよらない試みもまた、たぶんフィルム写真じゃないと味わえない体験だろう。
ぼくがどうしてフィルム写真を心地良いと感じるのか。それは多分、自分の目で見て心動かされた瞬間の記録と、時間が経過して色んな補正が掛かった記憶を、あの息苦しい暗室の中で照らし合わせていく作業が好きなんだと思う。もしかしたら「写真を撮る」とか「作品を仕上げる」とか「展示する」という行為が好きなのではなくて、単に暗室という空間が好きなのかもしれない。光を、闇の中で楽しむっていうギャップ。あの光はどんな光だっけ、ってことを、闇の中で妄想する。ネガを眺めて感覚を増感して、3号で一発焼きして、5号で黒い部分をダメ押しする。このやり方が合ってるのか間違っているかも分からないまま焼いて満足して、乾かした写真が部屋の隅に積み重なっていく。究極の自己満足。だからぼくの写真は、いつもひとりで楽しんで、自己完結して終わる。
別にこれでも立派な好きだと思うけど、たまたま偶然とはいえ暗室という稀有な設備が手元にあって、それなりの手間とお金がかかる趣味なのだから、その好きをもっと大事にしても良いんじゃないかと、そんなことをあの展示空間の中で感じた。カラー写真を手焼きしたらどんな世界が見えるだろうか。とことん突き詰めて写真を仕上げてみたらどう感じるだろうか。他人が撮った写真を焼いたら、ひとから技術を教わったら、ひとが焼いている様子を横で見ていたら、そしたらどういう気持ちになるだろうか。今までひとりで楽しんでいた写真を、他のひとたちと楽しんでみたら、また違った写真の楽しみ方が見えてくるんじゃないだろうか。そんな感じ。ひとりで勝手に色々と感化された。
「フィルムが好き」なひとたちが、色んなかたちの「好き」を壁にぶちまけた『#filmisnotdead』。そんな写真展に参加させてもらい、ひとりで色々とワクワクしている。自分のように、あの写真展を見て感化されたひとが他にもいたら良いなと思う。そんな写真展。12月26日(土)まで開催中。