友人とどっか行こうかって話になって、せっかくだし冬っぽい景色を見に行こうってなった。じゃあ山形に行こうということで、東北道をひた走った。

蔵王の怪物、スノーモンスターを見たいと思った。ロープウェイの駐車場に着いたら管理人のオジサンが近づいてきて、開口一番「溶けたよ」と言った。まじか。2日くらい前まではちゃんとモンスターだったんだけどね、と、ご丁寧に日付入りの写真を見せてくれた。彼らの遺影を目に焼き付けた僕らは、それでも見に行こうと言ってロープウェイに飛び乗った。

山頂は雲の中。目の前には白骨化したモンスターの死体があちらこちらに転がっていた。マイナス何度くらいだったんだろう、だんだんとカメラがキンキンに冷えてきて、シャッター切るのが億劫になってきた。

遠くシベリアからやってきた季節風は、日本海の水蒸気を吸って蔵王にやってくる。そしてこれでもかという風と氷を木々にぶつけてモンスターに変えてしまうのだ。モンスターの父は風。母は水。

一匹だけ、かろうじて立っているモンスターがいた。ちょうど人間と同じくらいの背の高さ。こんなクソ寒い環境で立派に立っている彼に感心したし、痩せ細ったその姿に親近感も沸いた。強く生きろ。俺も頑張る。大きくなったら、また会おう。

建物の中に入って暖かい缶コーヒーを飲んだ。最高。これが幸せっていうんだ。でも顔がすっかり冷え切っていたから、下山してしばらくは笑顔をマトモに作ることができなかった。

夜、銀山温泉を見に行った。雪景色を想像していたけれど、残念ながら温泉街に雪はほとんど残っていなかった。それでも、なんて素敵な場所なんだろう。まるで時空が歪んで大正時代に迷い込んだような感覚。ハイカラなカップルがちょっと照れながら手を繋いでいた。

これが一人旅だったら、いちおう温泉街は見つつも鉱山跡を探そうと躍起になっていたかも知れない。正直、普段は一人旅の方が好きだ。なんにも気を遣わなくて良いのが楽。けど、仲の良い友人とダラダラ旅をするのも楽しいことを最近知った。美しいものを、素敵なものを、心動かされた瞬間を、思いついた言葉そのままで口に出せるのは結構うれしい。

ふと夜空を見上げると、恐ろしい数の星々が瞬いていた。こんな星空を最後に見たのはいつだろう。あーあれがオリオン座で、あれは北斗の拳で見たことあるからたぶん北斗星。冬の大三角形は・・・なんか良く分からんけど明るい星で適当に三角形作っときゃ良いんじゃね。こういう時に星の知識がある奴はモテるんだろうなぁと思った。そのために星の知識を身に着けるなんて、自分は死ぬまでしないだろうけど。

タオルなんか持ってなかったのに、川沿いの足湯に飛び込んだらもう何もする気がおきなくなった。温泉は、内風呂よりも露天風呂の方が好きだ。寒い風に当たりながら暖かいお湯に浸かる方がゼータクな気がするからだ。どろどろと立ち上がって、銀山温泉を離脱。山形駅前の宿にチェックインして、コンビニでガサガサと買い込んだ地酒を夜中までグダグダ飲んで、気絶するように寝落ちした。

翌朝、煉瓦家という喫茶店でハーブの図鑑を眺めながらコーヒーを飲んだ。そのあと城跡の公園を見に行ったけど城っぽいものはほとんどなくて、馬に乗った最上義光の像が目立っていた。あれを作った人は、絶対にナポレオンの肖像画を参考にしたと思う。公園の名前は、霞城公園。霞の中に消えた城は自分には見えなかったけど、きっと見える人には見えるのだろう。お堀の中を、2両編成の電車がトコトコと走っていった。

今日は日曜日。だんだん帰ることを意識しなきゃいけなくなる。まだ考えるのは早いぞと自分に言い聞かせながら、車を走らせる。

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」

松尾芭蕉も山寺を訪ねたらしい。北関東や東北に行くと、大体有名な場所には芭蕉の句がセットで付いてくる。自分の地元は芭蕉が最後の一句を言い放って「じゃ!オレ帰るわ!」って旅を終えた場所なので、あんまりありがたみを感じなかったりする。

山の中に入ると、いくつかのゲートを通ることになる。地獄と極楽を隔てるゲートがあって、凄い顔をした木彫りの婆ちゃんが小さな小屋の奥からこっちを見て座っている。大阪の某所で見た光景を思い出した。ベルリンのクラブのセキュリティみたいな金剛力士像の横を通る時、邪心がある奴はつまみ出されるらしい。その奥ではインテリ閻魔が通行人たちの過去ログを黙々と台帳に記録していた。

1015段の石段を登って行くごとに、煩悩が消えて悪縁を払うことができると言われているそうな。煩悩が消えるってどんな感覚なんだろう。そもそも煩悩って何なんだろう。

崖っぷちのお寺。山寺は素敵な場所だけど、そこでの修業はめちゃくちゃエクストリームなんだとか。

下界を見下ろす。ここは極楽で、見えているのは地獄。でもこうやって見ると地獄も悪くないんじゃないかと思えてしまう。地獄の橋を、地獄の電車が駆け抜ける。さぁ帰ろう。

帰りに鷲コーヒーを飲んで、帰りたくない、帰りたくない、帰りたくないと、そればかりずっと口にしていた。本当に帰りたくなかった。もう少し山形の空気を吸っていたかった。それでも月曜日に向けて家に帰ろうと決心したのは、社会人としてイイ感じに訓練されてきた証拠だと思う。

白い山が、オレンジ色の夕日に照らされて火照る光景が綺麗だった。車を止めて写真を撮ろうと思わなかったのは、あの山を見ながら走り続けるのが心地良かったからかもしれない。夜の東北道をひた走る。スピーカーから流れるハンバートハンバートがセンチメンタルを加速させる。だんだんとビルが増えてきて、首都高に乗って、もう星なんてひとつも見えない街に着いた。友人とどっか行こうって話になって、ふらっと出かけた山形旅が終わった。

月曜日、埼京線に乗って新宿に着く頃までは、まだ心の半分が山形にいるようだった。まだしばらくは、車窓からの景色をあの山の火照りに脳内変換して、山形の空気を吸っていられるような気がする。