ぼくがまだ学生だった頃のある冬、ぼくはドイツのフライブルクという街にいて、中心地から少し離れた地区で開催されていたフローマルクトでCASIOの小さなキーボードを買った。確か10ユーロくらいだった。チープなグレーの筐体の、そうだSK-5とかいうサンプリングキーボードだ。
凍結した危なっかしい道を歩いて、ヴァイナハツマルクトの煌々とした明かりを横目で見ながら下宿先の部屋まで帰った記憶が蘇る。なぜか一緒に買ったチープな望遠鏡はちっとも使い物にならなかったっけ。
そのキーボードで作った音源が、さっき外付けHDDの奥底から出土した。冬に作った音源だからだろうか、冬っぽい音がした。ならばということで、このまえ撮った雪道の車載映像と組み合わせてみた。
ドイツで暮らした日々のことを思い出すのは、たいてい冬だ。雪を見ると、冬のフライブルクを思い出す。シュヴァルツヴァルトの粉雪、真っ白な路面に伸びるシュトラッセンバーンの軌道。グレーの空と白い地面に囲まれた、細くて茶色いミュンスター。